今週の「Athlete News」は、先週に引き続き、プロランニングコーチで、マラソン、駅伝解説者としても活躍されている、金哲彦さんをゲストにお迎えしました。
金哲彦(きん・てつひこ)さんは、1964年、福岡県生まれ。
早稲田大学では、4年連続で山登りの5区を走り、区間賞を2度獲得。
いまでいう『山の神』としてチームの連覇に大きく貢献されました。
卒業後は、リクルートで、マラソンランナーとして活躍。
現役引退後はランニングコーチとして有森裕子さんら、数々のオリンピック選手を指導されました。
現在はマラソン・駅伝解説者、プロランニングコーチとして活躍されています。
──金さんは、50歳を超えてのフルマラソンの3時間切り(サブスリー)を宣言されたとか?
宣言をして、実際に51歳で、2時間57分で走りました。サブスリーというのは1つのわかりやすい目標なんですよね。そこをクリアすることで私自身にも自信になりますし、いろんな人たちに勇気を与えられる。いろんな意味を込めて、「50歳を過ぎてもこういう風にやればサブスリーを出せますよ」ということをプロのコーチとして示す、私の中でのイベントでしたね。
──やっぱり、年齢が高くなっていくにしたがって、トレーニング方法は変えていくべきなんでしょうか?
試行錯誤だったんですけど、やっぱり(年齢が高くなると)疲れが取れないんですよ。“こんな練習をすればこれぐらいで走れる”というのは一応わかってはいるんですけど、足が痛くなった時になかなか治らないんです。それが一番苦労しましたね。
──自分のその時のコンディションと向き合いながら、話し合いながらペースを変えていけばいい?
そうですね。一応レースは決まっていたので、逆算して、“何週間前にはこのぐらい走っていなきゃいけない”とか、“何ヶ月ぐらい前にはこのぐらいの走力がなくちゃいけない”というシミュレーションはできますので、そこまで持っていくのにちょっと足りないなと思ったら長い距離を走ってみたり、スピードが足りないなと思ったら…まさにその時、私は皇居の周りをぐるぐる走ってましたからね。
──サブスリーだと、それに近づくまでの目標も高いんじゃないですか?
サブスリーというのは、1kmで言うと4分15秒ぐらいのペースになりますけど…。
──うわあ、速いなぁ!
でも実際、そのペースで42キロ走らなきゃいけないので、トレーニングでは1kmを4分ペースぐらいで走るんですよ。ですから、その時私は皇居一周、全力のタイムトライアルで5km×2本とかをやっていたんですけど、だいたい(5kmを)20分ぐらいで走ってました。1kmを4分ペースですね。
──僕もこの番組の企画でハーフマラソンにチャレンジしたんですけど、皇居を何回か走ったんです。1周20分ですか…。やっぱり50歳を超えてサブスリーを達成される方って、本当にすごい方ばかりですよね。
皆さん努力されていると思いますね。
──金さんが提唱される「体幹ランニング」というのは、どういう走りなんですか?
これはランニングの基本で、マラソンに限らず“走る”という意味では他のスポーツもそうなんですけど、走る時って、手足が動いているように見えるじゃないですか。腕を振って足が前に出て。でも、実は胴体の体幹をものすごく使ってるんですね。背中の肩甲骨周りの筋肉ですとか、腹筋ですとか。腹筋も、真ん中の腹直筋だけじゃなくて腹横筋とかも使って、ブレが起きないように、腹筋で体を支えてるんです。あとはインナーマッスル。大腰筋とかもありますけれども、実は、大事なものは全部体幹の中にあるんです。だから、外から走っている人を見ると、ただ真っ直ぐ胴体を立てているだけのように見えるんですが、実はものすごく(体幹を)使ってるんですね。
そういう意味で、“手足をどう動かすか”というよりも、“体幹をいかに上手く使って走るか”ということを、もう15年ぐらい前から提唱してますね。
──どうやったら上手く使えるんですか?
普段から姿勢を良くすることです。椅子に座っている時間が長い方はどうしても猫背になりがちです。(藤木さんに)今、姿勢を正しましたね(笑)。
──今トレーニングを始めましたよ(笑)。
座っている時も肩甲骨を時々動かして。いつでも動かせるように、固定させないってことですね。
──金さんも、この座っている姿勢もピシッと正しいですし、胸も開いてらっしゃいます。日頃から意識していらっしゃるんですか?
意識はしてますけど、もともと猫背の方って、背中の肩甲骨周りの筋肉があまり発達していないので、胸を開くことが辛いんですね。ただ、意識をして数ヶ月も経つと筋肉が出来てくるので、胸を開くことが辛くなくなります。
別に速く走るだけじゃなくて、“体幹を使う”というのは、体のためにとても良いことなんですね。
──体幹だけを鍛えるエクササイズみたいなものはありますか?
たくさんありますよね。青山学院大学の(陸上部の)原(晋)監督が“青トレ”と言ってやっていますけど、あれも全部体幹です。
エクササイズをやらずとも、普段から胸を開くとか、そういうことを気をつけているだけでも、かなり違います。
──一般ランナーの方も、ただ距離を走るだけじゃなくて、普段から姿勢を気をつけたり、もしくは“体幹トレーニング”も色々出てますから、そういうものに挑戦してみると、またタイムも変わってくるかもしれない。
良いと思いますね。
──僕もハーフマラソンで止まってしまっているんですけれども、フルマラソンへ挑戦するタイミングが…。ハーフを走ってみて、“この倍走るのは辛そう”って思っちゃったんですけど。
ちなみに、藤木さんはハーフのタイムはどのくらいだったんですか?
──3回挑戦させてもらって、最後は1時間43分くらいです。
おっ! 速いですよ!
──だけど、やっぱり1回は2時間を切りたい、完走したい。それで成功したら、次は自己記録をクリアしたい。最後はやっぱりちょっと無理なペースで突っ込んでいって、もう途中からお尻が痛くて、我慢しながら走ってたんです。だからすごく苦しいハーフだったんですよ。だから“ここからフルはちょっといけないかな”と思ってしまって。
それはね、まず頭を切り替えてください。ハーフマラソンって、ちょっとやっていくと頑張れる距離なんですよ。だから、藤木さんのように少しオーバーペースで突っ込んでも頑張っていけちゃいますよね。でも、追い込まなきゃいけないから、かなり苦しいですよね。
もしフルマラソンにチャレンジするんだったら、1時間43分でハーフを通過するんじゃなくて、2時間ぐらいで通過してみてください。今の走力があれば、けっこう余裕でいけるでしょ?
──いけな…くはなさそうな気はします(笑)。
本当にゆっくりゆっくり前半のハーフを走れば、走り切れます。
──でも、30kmを超えると違うって言いますよね。だって、ハーフ2時間だったら、そのままいったら4時間じゃないですか。“4時間で走れちゃうの? そんなわけないよね?”みたいな。
うん、そんなわけはないです(笑)。
例えば30km走、40km走などの練習をしっかりやっていれば、後半も落ちずに走れますけど、そこまではなかなか難しいと思いますので、20kmとか25kmぐらいを一度に走るトレーニングをやっていけば、多少は落ちますけど、4時間ちょっとでは走れると思います。
ただ、ハーフと同じタイム×2では絶対にいけません。だいたい、ブラス30分から1時間ぐらいかかりますね。
──それぐらい余裕を見て目標タイムを設定して、のんびりと。
そうですね。それだけ、前半はゆっくり走る。それがコツですね。
──リスナーにも走られている方がたくさんいらっしゃると思います。皆さんタイムを少しでも縮めたいと思っていると思うんですけど、何かアドバイスをお願いします。
今はレースがありませんが、逆に、ピンチはチャンスと捉える。ポジティブな気持ちというのが大事で、時間がたっぷりあるので、もし持久力が足りないなと思ったら持久力に特化したトレーニングをやる…とか。「苦手なものを克服する時間を与えられた」。オリンピック選手でもそう思ってやっている選手もたくさんいるので、本当に考え方次第だと思います。
──さあ、この番組では、毎回ゲストの方にCheer Up Songを伺っています。今週も金さんの心の支えになっている曲を教えて下さい。
ミスチルの桜井さんも入っているウカスカジーというグループの、『AMIGO』というアルバムに入っている「mi-chi」という曲です。
このアルバムはサッカーの応援ソングが多いんですが、その中でもこの「mi-chi」という曲は、ランニングにピッタリ! 歌詞もそうですし、リズムがバッチリなんですよ。私も朝走る時、まずこの曲をかけて走り出します。
──いつも音楽を聴きながら走られるんですか?
一人で走る時はわりと聴いています。誰かと走る時はそんなことはないんですけどね。
もう、この曲は元気になっちゃうんですよ。後でもしお時間があったら、ぜひ歌詞を見てみてください。“マラソン応援ソングじゃないかな?”と勘違いするぐらいの歌詞ですよ。
ざっくり言うと、「mi-chi」ですから、“長い道のりを行って、ダメな時もあるけど、まあ、行こうじゃないか“みたいな、そんな感じですね。“人間、ダメな時もある”と。
──走っている時に音楽を聴くと、聴いている音楽のテンポに引っ張られちゃったりしません?
そのテンポが、この曲はだいたい1分間に170ぐらいのテンポなんですけど、初心者にピッタリのリズムなんですよ。
──最後にお知らせなどありましたらお願いします。
10月28日に、角川書店さんから「新型コロナ時代のランニング」という本を出版させていただくことになりまして。今までとは違う、ニューノーマルの中でいかにランニングをしていくか、という。これはランニングを続けられてこられた方だけではなく、これから走り始める人、あるいはこのステイホーム期間中に走り始めた人たちもたくさんいらっしゃるので、そういう方たちに向けた本になっています。
今週のゲスト、金哲彦さんのサイン色紙を1名様にプレゼントします!
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