今週の「ATHLETE NEWS」は、先週に引き続き、スポーツライターの野口美惠さんをお迎えしました。
野口さんは、2008年から現在まで羽生結弦選手を取材されていて、14歳のスケート少年が21歳の絶対王者になるまでを綴った「羽生結弦 王者のメソッド2008-2016」が発売されたばかりです。
今週は、羽生選手の絶対王者への歩み、そして、野口さんしかしらない羽生選手の素顔についても伺いました。
──羽生選手は少年らしさもありつつ、大人っぽかったり。すごく繊細で中性的な部分があったり、男らしい部分があったり……と思ったのですが、実際の羽生選手はどうですか?
100パーセント、男ですね。王者というか…アスリートですね。前に話していたのは、「勝ちたい」とか「こういうことをやりたい」とか、今の自分より大きな目標を口にして、そこに、がむしゃらにしがみ付いて行くのがいいんだと、そういう考え方なんですって。
その方が自分にプレッシャーもかけるし、”言った以上、やらないと恥ずかしいぞ”ということを自分に課して頑張ると言ってました。
──その都度、憧れの選手は変わっていくと思うんですけど、”この選手が羽生選手を変えた”と思う選手はいますか?
パトリック・チャン選手ですね。羽生くんが、パトリック・チャンの試合を初めて見たときから、”この人が、自分の人生の永遠のライバルになる”と予感して、最初は真似をするところから始まって、もちろん、いまは違う持ち味になってるわけですけど。そういうスタートをしているので。
パトリック・チャンは、彼より少し年が上ですし、先に世界で戦っていた選手ですから。彼も見たときに、”ピン”ときたんじゃないかと思います。
──羽生選手にはドラマ性があるというか、オリンピックで金メダルをとったことも素晴らしいですし、練習中に怪我をして、その怪我を押して試合に出たりだとか。
宮城出身ということで、震災に遭っていますよね。震災のことについて、本人はどう受け止めていましたか?
震災直後は、彼も一回家を出て避難所に行っていたくらいですから。いろんなショックを受けていましたし、練習場所を探して、転々と全国をまわったり、苦しい思いをしたんですけど。
3月が震災ですから、シーズンが終わって、オフシーズン半年間を乗り越えてからの試合ですよね。次のシーズンの試合に入る頃には、彼の中で、”被災者代表”という、まるで被害者みたいな形で試合に出て行くことに葛藤していました。
周りは、「かわいそうに、頑張ってるのね」と言ってくれるけど、よく考えたら、自分は国から日本代表と言われて、アスリートとして試合に出て行くのに、被災者代表と言って海外に行って試合をするのは違うんじゃないかと、ものすごく葛藤した末に、自分はアスリートとしてやらなくてはいけない、という所を半年の間、悩んだ末に心に決めていましたね。
──アスリートとして集中してやった結果がついてくれば、みんなが勇気付けられる、励まされる。そこは別ですもんね。
試合という極度の緊張で、他の選手は全員、闘志を心の中に秘めている場所で、”被災者代表です”と言ってしまうと、戦えないわけですよね。特に、ここまでレベルの高い選手になってくると。
そうすると、試合の瞬間は被災地のこと云々よりも、純粋なアスリートとして戦って、彼が言うには、終わって挨拶をしますよね?その瞬間に、気持ちが被災地に戻ればいいんだと。
「みんな、ありがとう」と、その時に言うことは大事だけど、踊ってる瞬間は、被災地のことを考えるのではないんだなというのが、彼が最後に至った結論、心理になったと思います。
──その後の活躍を考えると、本当に多くの方が勇気付けられたと思いますよね。ソチオリンピックで金メダルをとってから、熱狂的な人気ですよね。
これが起きる前と、起きたあと、羽生選手に変化はありましたか?
ファンの方に対しては、ものすごい対応しなきゃというのを心がけている方ですよね。
彼も言ってるのは、試合という場所で、観客の声援、熱気を力に変えて、本番にしかできない演技をしたいということを、いつも話しているので。
”ファンの人が声援を送ってくれるから、いつもより頑張れる”それはファンのおかげだと言っていますね。
──スケート競技から離れた、21歳の羽生結弦さんはどんな人なんですか?
音楽も好きですし、特質的なのはあまり食べ物が好きじゃないということですね。
日本人は誰しも、「美味しいもの食べに行こうね」みたいな話をするわけですけど、全然食事に興味がないんですよね。
気を使っているというのではなくて、あまり沢山は食べないですね。
──アスリートとしては、食べるものに気を付けて、肉体改造みたいなことは、まだされてないですか?
必要な栄養はとって、たんぱく質をとるとか、そういうことはやるんですけど。「ケーキが食べたい」とか、そういうのは全然ないですね。
完全に、オン・オフしかないと、本人は言っていますね。
すごい集中して練習して、”終わりました”となったら、完全に現実逃避をするので、ゲームをやっているかぼーっとしてるか。どっちにしても話しかけにくい、みたいな(笑)。
──毎回、ゲストの方のお気に入りの一曲を伺っています。今回、野口さんが選んだ1曲を教えてください
Sisselというノルウェーの歌手の「Here, There and Everywhere」という曲なんですけど。もともとSisselという方が、94年のリレハンメルオリンピックの時に国歌斉唱で出た方で。
私がフィギュアスケートに出会ったのは、伊藤みどりのファンから始まっているんです。
92年のアルベールビルオリンピックで、みどりさんが銀メダルをとって、そこから私がスケートを始めて、その直後のオリンピックだったので、すごく心に残っています。
それ以来、この曲で3年に1回くらいは踊っていますね。
題名も「Here, There and Everywhere=いつもわたしは、近くにいる」という曲なんですけど、これを聴きながら踊っていると勇気が湧いてきて、誰かが近くにいてくれるような気持ちがして、試合でも上手くいくんです(笑)。
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