今週の「ATHLETE NEWS」は、先週に引き続き、レーシングドライバーで、今シーズンから「チームルマン」の監督に就任した脇阪寿一さんに、お話をうかがいました。
脇阪さんは、昨シーズン限りでスーパーGT500クラスを引退されまして、今シーズンからは、チーム・ルマンの監督に就任されました。
今週は、モータースポーツにおける監督という仕事についてお聞きしました。
──脇坂さんにとっても、すごく思い入れのあるチームですよね?
そうですね。TOYOTAの中で、「脇坂、TOYOTAにあり」ということを表現させてもらった、自分の好きなようにレースをさせてもらったチームなので。ここで自信がついて、そこからレース界の中で戦い続けさせてもらえたと言って過言ではないチームですね。
──古巣のチームで、今度は監督として、また世界一を目指すというのは見方は変わってきますか?
僕、一緒なんです。レーシングドライバーのとき、走る以外にやっていたことは、いわゆるチームの監督がするようなことと似通ったことだったんですね。
──例えば、どういったことですか?
一番大切なのは、チームの中の空気を作ることと、チームスタッフの向く方向を同じにすることですね。
全員が、同じ車を頭の中で走らせる、これがものすごく大切なんですよ。
メカニックは車を整えて、ドライバーは走って…さらに上には、みんなで同じ車を頭の中で走らせるんです。
ドライバーがチームに対して「車が曲がらない」とか、いろんなことを訴えたときに。例えば、関係無いマネージャーまでもが、”脇坂さんだったら、どういう風にセッティングするのかな?”とか考えながらも無線を聞いている。そういう風にすることによって、全体の力が変わる。
これはレースだけじゃなくて、会社もそう、野球もサッカーも同じですよね。
そういうことをやってきたつもりでいるので、今回チームに久々に合流したとき、みんな、全然動きがいいんですね。
僕は、「これで、なんで勝てないの?」って、社長に聞いたんですよ。
そしたら、「あんなに動くメカニック、見たことないよ」って言ったんですよ。
それは何かというと、実力があるか分からない脇坂寿一に対して、メカニックとかチーム員が、”これで、我々が変われるかもしれない”と思ってくれているんですね。
これは僕の力でもなくて、たまたまのイメージなんですね。
そう思ってくれてる彼らに対して、どういう風に自分が方向を示し、それに対して時差なく成績を出すか。成績って、我々勝負の世界では万病の薬なんです。
仲の悪い人間同士でも、成績が出れば抱き合う、仲が良くなるんですね。だから、時差なく成績を出してあげることに対して、「チームルマン」はもともと、素晴らしいチームなので、その自信をどう取り戻してあげるかっていうのが僕の仕事なので、得意分野だと思っています。
──レース中、ヘッドセットではどういうことを話しているんですか?
僕が若い時にチームに求めたのは、目の前を走ってる車のラップタイム、後ろで走ってる車のラップタイムです。
自分のラップタイムはモニターに出てきますから、前の車より0.1秒早かった、0.0何秒遅かったというのをやりながら…ラップタイムの変化が運転してるドライバーの精神状態を表しているんですよ。
それをバロメーターとして見るので、ラップタイムを精神的な状態を確かめるものとして見ますし、もっと言えば、見えない敵と戦う時もあるんですね。
僕ら、タイヤ交換に入っていって、また出て行くので一旦は離れるんですよね。
見えない敵が、どういうラップタイムで走っていてとか、作戦がどうかとか、だから詰将棋なんですよ。
──直線のスピードが速い車と、コーナリングの操作性が良い車と、どっちの方がいいんですか?
両方欲しいです(笑)、サーキットによりますね。
車って、よくドライバーの好みに合わせてセッティングする、と言いますけど、今の時代そんなことは終わりまして…。車がどう走りたいか、車が走りたいように、ドライバーがドライビングを合わせ込むんです。
──競馬みたいなところがありますね
僕が悩んで、武豊さんにお話したときに、「馬に対してどうしてますか?」と聞くと、「車をどう走らせたいの?自分でやってるの?」と言われて、「それに対してセッティングして、乗りやすいように考えています」と言ったんですよ。
武豊さんは、「違うよ。僕がやってるのは、馬に問いかけてるんだよ?どう走りたいの?いま、行きたいの?」と、彼の意見に対して、自分のアドバイスを教えてやりながら走らせるといいよ、と言われました。
それもあるんですけど、ドライバーが2人乗るんですね。1人の好みに合わせていたら、もう1人が合わないので。間をとるんじゃなくて、車が走りたい方向にドライバーがいくんですよ。
車って、調整したら、次に調整するまでその箇所は動かないんですよ。
──ドライバーは合わせられますもんね
走り方も、優秀なドライバーは変えられるんですよ
──人間が合わせた方が早いんですね
早いですし、レースは刻々と条件が変わっていくので、それを車で合わせるより、人間が合わせた方が絶対にすべての条件において、高い次元でマッチングが得られると思います。
──毎回、ゲストの方のお気に入りの一曲を伺っています。 脇阪さんがレース前やレース後に聴いている曲、 心の支えになった曲などはありますか?
Aviciiの「Wake Me Up」です。これ、カッコいいんですよね。
実は、長渕さんのご子息がレースをされてまして、僕のずっと後輩なんですけど。
今は引退して、音楽の道を頑張っているんですけど。彼と一緒に飲んでいて、先輩の悪いところですよね(笑)「カラオケで歌を歌え」と、振ったんですよね。
僕的には、お父様の歌を歌ってもらえると思って構えていたんですけど、入った曲がこれだったんですね(笑)。
音楽が鳴り出した時点で、”ちがうやろー!”と思ったんですけど、パーンと歌い出すんですよ。この歌知らないんですけど、”本人!?”って思うぐらいの歌だったんですよ(笑)。
──やっぱり、お上手なんですか?
もう、ヤバイですね!そのあと「ごめん、曲名教えて?」って言ってメモして(笑)。それからはレース前に聴いていたんですね。
英語で、何言ってるかわからないけど、人の気持ちと一緒で、最初静かなところから来て、最後盛り上がって終わる。そういう曲のような気がしてます(笑)。
彼のマインドの中には、モータースポーツのマインドも強く入っていて、本当にモータースポーツを愛してくれながら、我々に敬意を持ってくれている。
それから音楽の道に進んで、モータースポーツ全体として、彼の音楽を応援したいと思います。